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世界の鉄鋼業界は、脱炭素化と生産能力増強に向けた大規模な投資を積極的に進めています。本記事では、最新の業界レポートに基づき、北米、欧州、東アジアにおける主要企業の動向を分析し、世界の鉄鋼生産能力の現状と今後の展望を深く掘り下げます。特に、環境負荷低減への取り組みと地域ごとの市場特性が、今後の業界地図を大きく左右するでしょう。
北米:再編と新規参入による生産能力強化
北米市場では、M&Aと新規設備投資が世界の鉄鋼生産能力を再編しています。ArcelorMittalは、Nippon SteelからAM/NS Calvertジョイントベンチャーの持分を取得しました。この買収は、Nippon SteelによるUS Steel買収に伴う独占禁止法上の懸念を解消する目的があります。ArcelorMittal Calvertと改称されたこの施設は、年間530万トンのフラットロール鋼材生産能力を持ち、ArcelorMittalの北米における存在感を強化します。
一方で、新規参入企業も注目を集めています。Hybarは、アーカンソー州オセオラで新しい鉄筋プラントの稼働を開始しました。年間70万ショートトンの生産能力を持つこのグリーンフィールド施設は、自動車や白物家電市場向けのステンレス鋼材を供給します。さらに、Cleveland-Cliffsは、オハイオ州のCoshocton Worksで新しい垂直ステンレス光輝焼鈍ラインを稼働させました。このラインは100%水素雰囲気を使用し、持続可能性を向上させます。
欧州・東アジア:高精度化と脱炭素化への投資
欧州では、既存施設の最適化と近代化が世界の鉄鋼生産能力の効率化を推進しています。ArcelorMittal Distribución Iberiaは、マドリードのVillaverde工場で新しいサービス・流通センターを建設中です。この施設は、長尺製品の切断やショットブラスト・塗装ラインを備え、配送時間の劇的な改善が期待されます。また、ドイツのthyssenkrupp Steelは、Bruckhausen工場で新しい連続鋳造ラインの試験運用を開始しました。高精度・高品質なスラブ生産が可能となり、最新のホットストリップミルと統合されます。スペインのCelsaは、投資ファンドCriteriaCaixaによる出資が撤回されるなど、厳しい市場環境に直面しています。
東アジアでは、生産能力の拡張と脱炭素化への投資が顕著です。Yangjiang Hongwang Industrialは、中国広東省の施設で冷間圧延能力を年間40万トン増強する計画です。これにより、同サイトの年間ステンレス冷延コイル生産能力は160万トンに達します。さらに、日本のNippon Steelは、3つの主要拠点で電炉(EAF)技術への転換に8,687億円(約60.2億ドル)を投じる予定です。この大規模投資は、日本の脱炭素化イニシアチブの一環であり、日本政府からの資金援助も受けます。これらの動きは、各地域の特性を反映し、世界的な競争力を高めるための戦略的な投資です。
金属フォーカス 編集部コメント
世界の鉄鋼生産能力に関する最新動向は、単なる能力増強に留まらない深い示唆を含んでいます。各国・地域が、環境規制への対応、高付加価値製品へのシフト、サプライチェーンの強靭化といった複合的な課題に直面していることが浮き彫りになりました。特に、電炉への移行や水素利用技術の開発は、将来の鉄鋼業界のデファクトスタンダードを形成する可能性があり、これらの技術革新がグローバルな競争優位性を決定づけるでしょう。