製鉄所の脱炭素化を推進する「木炭ベース銑鉄」:欧州市場への潜在力と課題

charcoal-based pig iron

製鉄所の脱炭素化は、現代の産業における喫緊の課題です。その解決策の一つとして、「木炭ベース銑鉄」が注目を集めています。Hydnum Steelの最高戦略責任者フェルナンド・ペッサーニャ・サントス氏は、脱炭素化には多様なアプローチが必要であり、木炭ベース銑鉄はその重要な選択肢の一つであると強調しています。木炭ベース銑鉄は、製造プロセスにおけるCO2排出量が、再植林によるCO2吸収量を下回るため、実質的なCO2削減に貢献します。


ブラジルが主導する木炭ベース銑鉄の供給と欧州市場の課題

現在、木炭ベース銑鉄の主要供給国はブラジルです。アンゴラ、南アフリカ、ラテンアメリカからも供給されますが、その供給は不安定です。2024年、ブラジルの独立系銑鉄メーカーは50の工場を稼働させ、年間約700万トンの名目生産能力を有していました。しかし、実際の生産量は510万トンにとどまりました。

2024年のブラジルの銑鉄輸出量は376万トンに達し、その87%にあたる327万トンが米国向けでした。一方、欧州連合(EU)への輸出はわずか9%(約34万トン)に過ぎません。持続可能な鉄鋼会社GravitHYの最高経営責任者であるホセ・ノルディン氏は、欧州が木炭ベース銑鉄の脱炭素化への貢献を十分に認識していないため、輸入量が少ないと指摘しています。これにより、EUで生産される大量の鉄鋼の脱炭素化には十分な寄与ができていません。しかし、ノルディン氏は、木炭ベース銑鉄が将来的に欧州の脱炭素化においてより大きな役割を果たす可能性を強調しています。


価格プレミアムが示唆する木炭ベース銑鉄の価値

米国市場は、木炭ベース銑鉄にとって好ましい輸出先です。Fastmarketsのデータによると、2024年の米国メキシコ湾岸への銑鉄輸入価格の年間平均は1トンあたり476.39ドルでした。一方、イタリア向けの銑鉄輸入価格は1トンあたり417.74ドルでした。この結果、2024年の米国市場の価格プレミアムは約58.65ドルでした。2025年1月から5月にかけても、プレミアムは52.70ドルに達しており、下半期には平均49.78ドルと予測されています。

また、コークスベースのロシア産銑鉄と比較して、ブラジル産の木炭ベース銑鉄にはプレミアムが存在します。このプレミアムは、ロシアに対する制裁に起因し、ロシアが米国やEUといった通常市場水準が高い地域に販売できないためです。2025年1月から5月までの期間、ブラジル産銑鉄のFOB価格は平均472.43ドルでしたが、高マンガンロシア産銑鉄のFOB価格は平均330.25ドルでした。これにより、ブラジル産木炭ベース銑鉄のプレミアムは平均97.18ドルに達しています。この価格プレミアムは、グリーン製鋼のコスト構造に大きな影響を与える可能性があります。


金属フォーカス 編集部コメント

木炭ベース銑鉄は、鉄鋼産業の脱炭素化に向けた実行可能な選択肢の一つとして、その重要性を増しています。ブラジルからの安定供給と、特に米国市場での価格プレミアムは、その潜在的な価値を裏付けます。欧州市場においては、認知度の向上と供給網の確立が今後の普及の鍵となるでしょう。

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