CBAM暫定ベンチマーク公表、世界貿易に与える影響とは

EU CBAM Steel and Aluminium


欧州連合(EU)は、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の暫定ベンチマークを公表しました。鉄鋼アルミニウム、肥料、セメント分野で輸入コストが大幅に上昇し、総額120億ユーロ以上の追加コストが発生する見込みです。これにより、世界貿易の構造が大きく変化する可能性があります。


CBAMコスト算定の要点と初期影響

CBAMは、EU域外の高排出国からの輸入品に対し、EU排出量取引制度(ETS)と同等の炭素コストを課す仕組みです。暫定ベンチマークに基づき、輸入業者は埋め込まれた排出量がベンチマークを超えた分に対してCBAM証書を購入する義務があります。2026年にはCBAM係数97.5%が適用され、平均EU ETSオークション価格約73€/tCO₂に連動した価格設定となります。

初年度から急激なコスト上昇が予想され、特に鉄鋼製品は総CBAMコストの81%を占めます。BF-BOF方式の高炭素排出鋼生産により、2035年には年間300億ユーロ超のコストが発生する見込みです。一方、アルミニウムは排出量が比較的低く、2035年の総CBAM負担は約7%にとどまります。


セクター別・地域別の影響と競争力への波及

CBAMコストはセクター間で大きく異なり、セメントなど低付加価値・高排出製品は価格上昇の影響を最も受けます。農業、自動車、建設などの下流産業にもコスト転嫁が波及します。地理的には、2035年のCBAM証書需要の92%がアジアに集中し、中国、トルコ、インド、ロシアが大きな負担を抱えます。国別の実効CBAM関税率では、インドネシア(154%)、エジプト(86%)が高く、カナダやバーレーンは低水準です。

排出量が少ない生産者は競争上の優位性を得られる一方で、高排出国の輸出業者はEU市場から撤退し、他地域へのシフトを余儀なくされる可能性があります。結果として、世界の供給網に大きな変動が生じ、企業は調達戦略や生産ルートを見直す必要が出てきます。


金属フォーカス 編集部コメント

CBAMは鉄鋼・アルミを中心とする金属業界に巨大な影響を与えます。企業はサプライチェーン全体で低炭素化を意識した戦略を迫られるでしょう。長期的には、低排出国・低炭素製品へのシフトが市場競争力を左右する鍵となります。

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