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Chinese Copper smelters |
中国銅製錬所の苦境と新たなベンチマーク
世界最大の精錬銅生産国および消費国である中国の銅製錬業界は、前例のない課題に直面しています。チリの鉱山大手アントファガスタと一部の中国製錬所が、銅精鉱の加工費(TC/RC)を1トンあたり0ドル、1ポンドあたり0セントで合意しました。この中国銅精鉱加工費は、業界にとって過去最低水準を記録しました。しかし、スポット市場の加工費がマイナス43ドル前後で推移する中、製錬所側にとっては予想よりも良い結果と評価されています。
精鉱供給不足が加速させる市場の転換点
今回の合意は、世界のクリーンエネルギー移行に伴い需要が高まる銅の精鉱供給不足を鮮明に示しています。製錬所は通常、銅精鉱を精錬銅に加工する対価として、鉱山会社から加工費を受け取ります。しかし、近年中国で新たな製錬能力が稼働し、供給成長が予想を下回る中で、精鉱供給不足が深刻化しています。アイバンホー・マインズが地震活動の影響で生産ガイダンスを下方修正したことも、供給逼迫に拍車をかけました。調査会社ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスは、世界の銅精鉱供給が2025年に110万トン、2026年には260万トンの不足に陥ると予測しています。この深刻な供給不足が、中国銅精鉱加工費の異例のゼロ合意につながりました。
損失拡大と中国製錬所の戦略
このゼロ加工費契約は、中国の製錬所の収益源である加工費をなくし、損失をさらに深めます。アナリストや製錬所関係者は、この低い加工費が一部の製錬所に減産を余儀なくさせる可能性があると指摘しています。しかし、中国の製錬所は、金、銀、硫酸などの副産物からの収益が銅からの損失を部分的に相殺しているため、これまでのところ生産を大幅に削減していません。実際、中国の精錬銅生産量は、今年1月から5月にかけて前年同期比8%増の605万トンと過去最高を記録しました。コンサルタント会社Mysteelは、2025年の総生産量が前年比12%増の1329万トンに達すると予測しており、中国の製錬所が引き続き高い生産水準を維持する意向を示しています。この状況は、中国銅精鉱加工費がゼロとなっても、中国の銅生産が堅調に推移する可能性を示唆しています。
金属フォーカス 編集部コメント
今回の中国銅精鉱加工費のゼロ合意は、世界の銅市場における構造的な変化を明確に示しています。製錬所の収益モデルが転換点を迎え、副産物価値の最大化や生産体制の効率化が今後一層重要となるでしょう。世界のクリーンエネルギー移行が加速する中、銅の安定供給確保に向けた鉱山開発と製錬のバランスが、引き続き業界の主要課題となります。