アースマイトル、欧州グリーン製鉄プロジェクトを停止:高コストと市場競争の壁

ArceloMittal EAF/DRI Project

アースマイトル、ドイツでの脱炭素化投資を中断

アルセロールミッタルは、ドイツにおける電炉(EAF)/直接還元鉄(DRI)プロジェクトの中止を決定しました。これに伴い、ドイツ政府からの総額13億ユーロの補助金も取り消しとなります。当初、2025年6月までに建設を開始する条件が付帯していました。同社は、現在の市場状況とCO2排出量削減型製鉄の経済的実行可能性の欠如を理由に、投資継続が不可能であるとドイツ政府に正式に通知しました。アルセロールミッタル・ヨーロッパのゲルト・ヴァン・プールヴォールデ最高経営責任者(CEO)は、「財政支援があっても、この移行の経済的実行可能性が十分に確保されていないことが、課題の規模を浮き彫りにしている」と述べました。この動きは、欧州グリーン製鉄への移行が直面する現実的な障壁を示しています。


欧州製鉄産業の課題:高まる輸入競争と高コスト

欧州の製鉄産業は、現在、競争力を維持するために前例のない圧力を受けています。ヴァン・プールヴォールデCEOは、脱炭素化に必要な追加コストがなくとも、輸入が大きな問題であると強調します。彼は、フラット製品輸入に15%のキャップを設け、現在の水準から約50%削減する必要があると訴えました。これが達成されれば、業界は脱炭素化への投資を推進する上ではるかに良い立場に立てるでしょう。この発言は、欧州グリーン製鉄への投資を阻む構造的な問題を浮き彫りにしています。

さらに、グリーン水素のコストも大きな障壁です。現在、グリーン水素は製鉄用途で経済的に実行可能なエネルギー源ではありません。水素価格は現在1kgあたり約5~8ユーロと高価であり、製鉄における商業的実行可能性のためには2.50~3.00ユーロ/kg前後であるべきとされています。また、天然ガスベースのDRI生産も過渡期のソリューションとして競争力がありません。これらの要因は、欧州グリーン製鉄への移行が想定よりも遅れていることを示唆しています。


脱炭素目標への暗雲と欧州鉄鋼市場の現状

アルセロールミッタルは、2024年11月にも不利な市場状況を理由に、欧州での複数のグリーンプロジェクト投資を一時停止しました。同社は、政治、エネルギー、市場の状況が期待される方向に進展しなかったため、欧州での新しいDRI-EAFプラント建設に関する最終投資決定を下せなかったと警告しています。アルセロールミッタルは施設の炭素排出量削減には引き続き取り組むものの、2030年のCO2削減目標達成はますます困難になっていると表明しました。これは、エネルギー転換がすべてのセクターで予想よりも遅れているという広範な傾向を反映しています。

欧州鉄鋼市場は、貿易措置が導入されているにもかかわらず、高水準の輸入により主要な鉄鋼使用セクターからの需要低迷に苦しんでいます。欧州鉄鋼産業協会(Eurofer)は、2025年のEU域内の見かけ消費量予測を下方修正し、0.9%減の1億2800万トンになると見ています。2024年のEUへの炭素鋼輸入は2636万トンに達し、前年比6.4%増加しました。輸入シェアは国内消費の約30%に上ると推定されています。これらの市場状況は、欧州グリーン製鉄への投資意欲をさらに減退させています。


金属フォーカス 編集部コメント

今回のアルセロールミッタルによるプロジェクト停止は、欧州における製鉄所の脱炭素化が、単なる技術的課題に留まらず、経済的・政治的要因に大きく左右される現実を突きつけました。高コストなグリーン水素と、保護主義が不十分な状況下での輸入競争が、革新的な投資を阻害しています。政府の補助金だけでは解決できない根深い問題が存在し、今後、欧州グリーン製鉄の実現には、より抜本的な政策と市場構造の変化が不可欠となるでしょう。

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