製鉄用原料炭市場:需要高まる中で進む供給制約と政策リスク

Raw coal market for steelmaking


世界の製鉄用原料炭市場は、供給制約、政策的変化、エネルギー転換の影響を受けて転換期を迎えています。2025年9月20〜23日にインドネシア・バリで開催された「Coaltrans Asia 2025」では、鉱山会社、鉄鋼メーカー、トレーダー、政策担当者が集い、原料炭と鉄鋼市場の最新動向が議論されました。本稿では、同会議の主要な論点を3つの視点から分析します。


アジア主導の原料炭需要と欧州の低迷

世界の粗鋼生産は2025年1~7月で10億9000万トンと、前年比1.9%減少しました。中国(▲3.1%)、日本(▲4.7%)、ロシア(▲4.4%)などが軒並み減産する一方、インド(+9.8%)と米国(+1.5%)は成長を維持しています。これは製鉄用原料炭市場においても地域間で明暗を分ける要因となっています。

欧州では、グリーンスチール移行の遅れとエネルギー政策の強化により、原料炭需要が低迷しています。また、米国による北東アジア自動車メーカーへの関税継続も、鉄鋼・原料炭市場の需要を抑制しています。一方で、インドと東南アジアは高炉投資を加速しており、今後数十年にわたり原料炭への依存が継続する見通しです。


供給側の遅れと豪州のロイヤルティ制度変更

供給面では、新規プロジェクトの立ち上げに対するコスト高、規制強化、承認遅延が顕著になっています。**オーストラリアでは鉱山開発承認に平均1371日(約4年)**を要しており、2019年比で60%も延びています。

加えて、クイーンズランド州は2022年7月から段階的ロイヤルティ制度を導入しました。例えば、製鉄用原料炭の価格が200ドル/トンの場合、1トンあたり34ドルのロイヤルティが発生し、従来より10ドル高い水準です。価格が250ドルになると、ロイヤルティは54ドルに跳ね上がり、20ドルの追加負担となります。

その結果、多くの鉱山会社は新規投資に慎重になり、2026年以降の海上輸送可能な供給量が需要を下回るリスクが高まっています。


中国の供給力と輸出の限界

中国は国内供給の余剰により、2025年1〜7月の製鉄用原料炭輸出量を前年同期比65%増の81万トンとしました。これは、山西焦炭集団や平煤グループによる輸出再開が寄与しています。

しかしながら、中国の主要炭田は内陸部に位置し、陸路輸送コストが高いため、国際競争力に限界があります。加えて、海外需要家は依然として高品位炭を重視する傾向が強く、中国炭の品質面での選好は限定的です。

さらに、中国政府にとって石炭輸出の経済的重要性は低く、2025年1〜7月の輸出総額に占める石炭の割合はわずか0.03%にとどまっています。そのため、輸出政策を積極的に緩和する動機には乏しい状況です。


金属フォーカス 編集部コメント

製鉄用原料炭市場は、アジア新興国の鉄鋼成長と、豪州や中国の供給制約という構造的な供給不均衡に直面しています。特に、政策的な要因や環境規制の強化が、供給の柔軟性を低下させており、2026年以降の供給逼迫は価格高騰の要因となる可能性があります。鉄鋼・原料炭市場の長期的な需給見通しは、地域間の投資動向と政策対応が鍵を握ります。

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