世界鉄鋼能力動向:アルセロール・ミタルの仏EAF投資再開、Cleveland-Cliffsは複数設備停止へ

Cleveland-Cliffs

MEPSが5月の世界鉄鋼生産・設備動向を報告

日欧亜米で脱炭素、設備更新、集約化の動きが加速

鉄鋼調査会社MEPSインターナショナルは2025年5月版「世界の鉄鋼生産・能力動向」を発表し、欧米を中心に各社が脱炭素や生産集約化、またアジア地域では電磁鋼板や棒鋼の新設備投資が進んでいることが明らかになった。

【欧州】アルセロール・ミタル:仏ダンケルクで電炉建設へ再投資

欧州最大手のアルセロール・ミタルは、フランスにおける電炉(EAF)新設計画への投資を今夏以降に再開すると発表。新たに12億ユーロ(約2,000億円)を投じ、ダンケルク製鉄所にEAFを建設する。

これにより、同社の仏国内投資総額は20億ユーロに達し、マルディック(電磁鋼板:5億ユーロ)、フォス・シュル・メール(5300万ユーロ)の計画も含まれる。

同社はこれまで、欧州鉄鋼業界が2009年以降最悪の危機に直面しているとして投資を一時停止していたが、2025年3月の「欧州委員会 鉄鋼・金属アクションプラン」により、貿易防衛・CBAM(炭素国境調整メカニズム)導入の進展が期待されているとし、輸入の市場シェアを最大15%に制限するよう要請している。

【トルコ】Saritas、ステンレス一貫製造体制を2030年までに構築

トルコのSaritas Celikは、ヤロヴァにおける年産80万トンのステンレス鋼製造プロジェクトを正式に開始。2024年の用地取得を経て、以下の段階的導入を予定している:
  • 2027年:年産40万トンの冷間圧延ライン稼働
  • 2028年:熱間圧延ライン導入で能力倍増
  • 2030年:メルトショップ導入により、原料から製品までの一貫生産体制を確立

【北米】Cleveland-Cliffs、3施設を6月末までに無期限停止へ

Cleveland-Cliffsは、需要低迷と損失の継続を理由に、2025年6月30日までに以下の施設を無期限で操業停止すると発表:
  • ペンシルベニア州スティルトンの電炉(EAF)
  • イリノイ州リバーデールの転炉(BOF)とストリップミル
  • ペンシルベニア州コンショホッケンの厚板仕上げライン
同社は、これら非中核資産の停止により年間最大3.5億ドルの固定費削減を見込んでおり、自動車用鋼材に注力する体制への転換を図る。

【アジア】

▷中国:沙鋼集団、電磁鋼板向け第2冷間圧延機を導入
中国江蘇省の沙鋼集団は、自動車用高性能電動モーター向けの非方向性電磁鋼板(NGO)年産8万トンを製造する第2冷間圧延ラインを新設。2026年稼働予定で、厚さ0.1mm、幅1,350mmまで対応可能。

▷日本:千代田鋼鉄、15分以内で鉄筋を生産可能な新設備導入
神奈川県綾瀬市の千代田鋼鉄は、新たにラドル炉、シングルストランド連鋳機、エンドレス鉄筋圧延設備の設置を開始。年間43万トンの鉄筋を10〜35mm径で生産し、鋳造から圧延まで15分以内の生産が可能となる。年内の稼働開始を予定。

▷日本:合同製鉄、姫路工場の中型形鋼圧延設備を近代化へ
合同製鉄は、姫路工場の圧延設備更新に向けて、ダニエリ社と契約を締結。9,000万ドルの投資で2基の可動式リバーシングミルを導入し、1938年から稼働している既存設備を2028年末に更新予定。

金属フォーカス編集部コメント

欧州では脱炭素・CBAM対応が、北米では需要縮小への対応が、アジアでは高付加価値鋼材と設備近代化が進む。鉄鋼生産は「統合と選別」の時代に入りつつある。

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