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The Metals Company |
クラリオン・クリッパートン海域の未開発資源が注目集めるも、規制と環境リスクに不透明感
次世代のクリーンエネルギー転換を支える鍵となる金属資源——それが、太平洋クラリオン・クリッパートン海域(CCZ)の深海底に眠るニッケル、コバルト、銅、マンガンなどだ。特にポリメタリックノジュール(多金属団塊)として広範囲に分布し、電気自動車(EV)用バッテリーや再生可能エネルギー機器に不可欠とされる。
しかし、深海採掘には依然として大きな懸念が残る。WWF(世界自然保護基金)のジェシカ・バトル氏は「深海の生態は脆弱で、私たちはまだその機能を十分に理解していない」と警告する。
The Metals Companyが2025年採掘開始を目指すが、規制未整備のまま申請へ
国際海底機構(ISA)は、国境を越える海底資源採掘を監督する国連付属機関だが、2023年7月に最終規制の策定期限を逃した。その結果、ISAは現時点で包括的なルールなしに採掘申請を審査せざるを得ない。
カナダのThe Metals Companyは、2024年7月にも申請を提出予定。同社は、NORIと呼ばれる区域において世界最大規模の未開発ニッケル資源を保有すると主張し、同社の2鉱区からは2.8億台のEVバッテリーに相当する金属が供給可能とされる。
一方で、環境影響の全容は不透明だ。同社のライフサイクル評価によれば、深海採掘による温室効果ガス排出量は陸上採掘より最大70%低減するが、生物多様性への影響や堆積物プルーム(濁流)の問題は評価対象外だった。
規制と企業倫理のはざまで揺れる深海採掘
CCZには、未確認の生物種が数千存在するとされ、ポリメタリックノジュールを生息環境として利用する生物も多い。最近の調査では、新種の深海サンゴや「グミリス」などの未発見種も確認されており、採掘がこれらの生態系を根本から破壊する可能性が懸念されている。
法的な不確実性も解消されていない。ドイツの研究者プラディープ・シン氏は「ISAは『環境的に許容できる損害』の定義すらしていない」と指摘。加盟36カ国の合意形成には年単位の時間がかかる可能性もある。
このような中、Google、BMW、ボルボなど20社超がモラトリアム(採掘一時停止)の支持を表明。一方、The Metals Companyは、2021年のSPAC上場以降、資金繰りに苦しみ株価も90%下落。大株主だったマースクも2023年に撤退している。
今後の金属供給における深海採掘の役割は、規制整備と科学的知見の積み重ねに大きく左右される。技術革新と自然保護のバランスが、重要な転換点を迎えている。
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MINING