スクラップ輸出の無規制がEU鉄鋼業の脱炭素投資に影響:原材料確保に暗雲

Ferrous Scrap


原材料不足がグリーンスチール化を阻む最大のリスクに

欧州連合(EU)の鉄鋼産業は、2030年からのCO₂排出枠撤廃を前に大規模な脱炭素化への移行を進めています。従来の高炉製鉄は経済的に成り立たなくなり、主に鉄スクラップを原料とする電炉(EAF)方式への転換が急務となります。しかしながら、EU域内のスクラップ市場の無秩序な自由取引が、鉄鋼業界の長期的な投資計画に深刻な影響を及ぼしています。


スクラップ供給不足と輸出偏重の矛盾

原材料である鉄スクラップの需要は年々増加しています。例えばイタリアでは、34基の電炉が稼働しており、年間1,900万トンのスクラップが必要ですが、その3分の1は輸入に依存しています。鉄鋼業界団体Federacciaiは、この需給ギャップが今後さらに拡大すると警鐘を鳴らします。

一方で、EUは脱炭素を推進しながらも、スクラップの輸出を大幅に許容しており、政策の一貫性が問われています。2023年にはEUからトルコ、インド、エジプトなどへ約1,900万トンの鉄スクラップが輸出されました。これは、将来のグリーンスチール生産を支えるべき資源が域外に流出していることを意味します。


投資プロジェクトと価格上昇に迫るリスク

そのような環境下でも、EU内では巨額のグリーンスチール投資が進行中です。代表例として、ウクライナのMetinvestグループとイタリアのDanieliが共同出資する「Metinvest Adria」プロジェクトでは、イタリア・ピオンビーノに年産270万トンの電炉製鉄所を建設する計画が進められています。総投資額は25億ユーロに達し、イタリア政府も戦略的プロジェクトとして支援を表明しています。

しかし、スクラップ不足は既に価格に反映されています。ロンドン金属取引所では、鉄スクラップ価格が1トンあたり350ドルまで上昇しており、2026年には380ドルへの値上がりが予測されています。これにより、計画中の脱炭素投資が採算性を失うリスクも高まっています。

2025年上半期、EUの第三国向け鉄スクラップ輸出量は前年同期比0.9%減の811万トンでしたが、依然としてトルコ向けが70%(557万トン)を占めており、輸出偏重の傾向は続いています。


金属フォーカス 編集部コメント

EU鉄鋼業界の脱炭素戦略は、スクラップという限られた資源の確保に左右されます。自由貿易の原則と資源ナショナリズムのバランスが問われる中、政策当局は市場メカニズムと環境目標の整合性を再設計すべき局面に来ています。


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