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欧州委員会(EC)は2025年10月7日、EU鉄鋼産業の保護を目的とした輸入規制強化案を発表しました。内容は、2024年の輸入枠を47%削減し、枠外輸入品に対して50%の関税を課すというものです。これにより、EUの鉄鋼市場は大きな変革期を迎えます。
EU鉄鋼輸入規制の具体的内容と背景
欧州委員会は、EU鉄鋼産業が直面する過剰生産能力の不公平な影響に対抗するため、輸入割当量を年間1,830万トンに削減する案を提示しました。これは2024年の割当量に比べて47%の減少です。加えて、割当枠外の輸入品には従来の25%から倍増した50%の関税を課します。さらに、鋼材の溶解・鋳造段階での追跡制度を導入し、不正回避を防止する仕組みも強化されます。
この新たな保護措置は、2026年6月に現行の制度が終了するのに合わせて導入される予定で、WTOルールに適合しています。欧州経済領域(EEA)加盟国であるノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインからの輸出は関税や割当対象外です。また、ウクライナのような安全保障上の緊急事態にある国に対しては、特例的な配慮も検討されています。
業界の反応と国際的な波紋
EU鉄鋼業界は今回のECの提案を歓迎しています。欧州鉄鋼協会(EUROFER)は、この措置が業界のニーズに即しており、生産者や労働者にとって重要な生命線になると評価しました。アルセロールミッタル・ヨーロッパのCEO、ゲルト・ヴァン・ポエルヴォルデ氏も迅速な施行を求めています。一方、ドイツ鉄鋼協会(WVStahl)は、これが公正な競争環境を確保する重要な一歩とコメントしました。
一方、EUの貿易相手国からは懸念が上がっています。英国は割当枠の詳細な説明を求めており、韓国は輸出への悪影響を懸念しています。市場では、2026年7月以降の適用開始が最有力とされるものの、欧州議会での審議や修正に時間を要する可能性も指摘されています。
輸入割当量は2025年の輸入量を大幅に下回る水準であり、これにより2026年第3四半期以降は輸入がさらに約50%減少する可能性もあります。これらの変化は市場に不確実性をもたらしています。
なお、ウクライナ産鉄鋼製品は2025年6月に欧州議会の規制により保護措置から除外されており、戦争下の経済支援を意図しています。今回の措置においても、ウクライナは割当制の適用外とされる見込みです。
今後の展望と日本・アジア市場への示唆
EUの鉄鋼輸入規制強化は、グローバルな鉄鋼貿易に大きな影響を及ぼします。日本や韓国、中国など主要輸出国は、輸出戦略の見直しを迫られるでしょう。特に英国鉄鋼業界は、EU市場からの締め出しによるダメージが深刻化する恐れがあります。加えて、ウクライナ産鉄鋼製品の除外措置が継続される見通しは、地域の政治的配慮も反映した措置です。
欧州鉄鋼業界の生産能力低下や低稼働率が背景にあるため、この措置は業界再建の一環として機能すると期待されます。投資家や政策担当者は、EUの保護政策動向を注視し、サプライチェーンの変化に迅速に対応する必要があります。
金属フォーカス 編集部コメント
EUの鉄鋼輸入規制強化は、世界的な鋼材供給網の再編を促進する契機となります。特にアジアからの輸出に制約がかかる一方で、欧州内生産の競争力強化を狙う動きは今後も加速するでしょう。業界は多角的な対応戦略を早急に策定する必要があります。