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| Brazil Steel |
EU・米国の保護主義強化を受け、ブラジルの鉄鋼産業が防衛策を求める理由
ブラジルの鉄鋼業界は、世界的な鉄鋼供給過剰と歪んだ貿易構造の中で、鉄鋼輸入の急増に直面している。Aço Brasil(ブラジル鉄鋼協会)は、EUが発表した新たな輸入セーフガード案を受け、ブラジルも迅速に同様の措置を講じる必要性があると警鐘を鳴らした。とりわけアジアからの低価格鋼材が流入する現在の構図では、貿易防衛策なしには国内生産が深刻な打撃を受けかねない状況だ。
世界的な鉄鋼貿易再編のなか、ブラジルが次の“供給の受け皿”に
欧州委員会は10月7日、鉄鋼輸入の関税フリー枠を47%削減し、超過分に対し50%のアドバロレム関税を課す制度改革案を発表した。これは、すでに米国やカナダが実施している高関税措置に続く形である。Aço Brasilはこれに対し「EUの対応は、ブラジルにも即時の対応を促すシグナルである」と述べた。
実際、米国が2018年に50%の鉄鋼関税(セクション232)を発動して以来、アジアの輸出業者は販路を南米や欧州にシフトさせてきた。現在、EUにも新たな障壁が立ちはだかる中、貿易障壁の少ないブラジルが主要な代替輸出先として狙われている。特に中国などの“機会主義的”輸出業者の動きが顕著だ。
国内市場の3分の1を侵食する輸入鋼材、反ダンピング強化へ
Aço Brasilのデータによれば、2025年1月〜8月における平鋼材の輸入は前年同期比で30%増加。通年では32.2%の増加が見込まれ、過去平均の約3倍という異常値に達している。この結果、ブラジルの国内市場の約3分の1が輸入品で占められている。
ブラジル鉄鋼業界の関係者は、「我が国の貿易政策は、輸入規制に対してほぼ無防備な状況だ」と批判する一方で、輸入品に依存してきた企業側からも「極端な価格競争が逆に市場全体の健全性を損なっている」との声が上がっている。
こうした中、政府は反ダンピング措置を拡大し、現在では主要な平鋼製品カテゴリのほとんどがその対象となっている。また、CSN(コンパニア・シデルジカ・ナシオナル)など主要鉄鋼企業は、割当制や数量制限の導入を政府に求めるなど、国内産業の保護を急ぐ動きが加速している。
輸出戦略にも打撃:EUの規制強化がブラジルの逃げ道を塞ぐ
一方で、EU向けの輸出も新たなリスクに晒されている。米国による関税措置により、ブラジルは近年、イタリアを中心にEUへと輸出をシフトさせていた。しかし、今回のEU案が実施されれば、その販路にも制約が加わる。結果としてブラジルの製鉄各社は価格引き下げを通じた新規市場の獲得を迫られており、実際に「1トンあたり10ドルの値下げを実施している」との証言も出ている。
加えて、国内供給の過剰を避けるためには、政府による市場安定化策が不可欠だ。長期的な貿易戦略と政策的支援がなければ、競争力の維持が困難になるのは必至である。
金属フォーカス 編集部コメント
ブラジル鉄鋼業界は、世界的な貿易構造の変化に直面し、いま転換点を迎えている。輸出先の多様化と国内市場の保護の両立が鍵となる中、他国に倣った戦略的対応が不可欠だ。今後、資源ナショナリズムの高まりが、鉄鋼・重要鉱物の供給網再編を一段と加速させる可能性がある。


