鉄鉱石価格交渉で浮上する中国元決済の可能性:グローバル地政学の新たな駒

Iron Ore


鉄鉱石市場における中国元決済の動向と課題

鉄鉱石の主要買い手である中国国有企業と豪州の大手鉱山会社間で、価格と決済通貨を巡る交渉が膠着状態にあります。中国の鉄鋼業界は、鉄鉱石の長期契約において中国元(人民元)での支払い導入と、現行のスポット価格(約80ドル/トン)を基にした四半期契約の採用を強く求めています。一方、鉱山会社は米ドル決済を主張し、2025年の価格を15%引き上げて109.5ドル/トンとする提案をしています。

中国は米ドルに代わる国際通貨として人民元の普及に注力しており、鉄鉱石の一部契約でも2019年以降、人民元決済が試みられてきました。たとえば、河北鋼鉄は2024年1~9月に約306万トンの鉄鉱石を人民元信用状(LC)で輸入し、前年同期比で25%増加しています。この動きは、人民元の国際市場におけるシェア増加(2025年時点で8.5%)にも現れており、アジア太平洋地域への人民元貸出が増加し、米ドル貸出が減少しています。


中国元決済普及の現状と市場の見解

多くの中国鉄鋼メーカーは長期的に人民元決済を希望し、とくに中国港湾市場での取引増加に期待を寄せています。港湾市場では、大口契約よりも柔軟なトン数や価格交渉が可能であるためです。しかし、専門家や市場関係者は通貨切替の影響を限定的と見ています。既に主要鉱山各社はスポット市場で人民元建て取引を実施しているため、完全移行の可能性やその規模は不透明です。

さらに、人民元決済が有効なのは、中国元での売上や中国の大連商品取引所でのヘッジ取引を行う買い手に限られます。一方で、外国為替リスクや品質調整の算定方法を巡る契約上の課題も残ります。これらは契約価値に大きく影響するため、交渉のハードルとなっています。


価格が依然として最大の争点

価格面では、主要鉱山が中国港でのスポット販売価格を引き下げているため、既存の長期契約の更新を躊躇する鉄鋼メーカーが増えています。交渉の解決には鉱山側の価格妥協が不可欠であり、長期契約価格を港湾市場価格以下に抑えることが望まれます。また、一部には契約の月次平均価格に代わる年間平均インデックスの導入案も浮上していますが、実現は難しいとみられています。さらに、中国の鉄鋼消費減速、鉄鋼生産抑制、新興供給の増加などが長期価格に下押し圧力をかけています。


金属フォーカス 編集部コメント

鉄鉱石市場における中国元決済の動きは、地政学的な通貨シフトの象徴といえます。とはいえ、為替リスクや価格調整の課題が依然として根強く、即時の大規模移行は困難です。今後は、中国の鉄鋼需要動向やサプライチェーン再編が、この決済通貨問題の行方を左右すると考えられます。

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