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| LME Week 2025 |
2025年LMEウィークで、トラフィグラ(Trafigura)のCEOリチャード・ホルトム氏が「鉱業は重要ではない、精錬と精製こそが重要だ」と発言し、業界関係者から注目を集めました。この発言は、鉱物供給と精錬インフラに関する重要な戦略的洞察を提供し、今後の業界の方向性を示唆しています。
精錬と精製の重要性を強調
ホルトム氏は、鉱山から直接採掘される鉱物そのものよりも、その後の精錬や精製の過程こそが業界の未来にとって重要だと強調しました。彼は、「鉱業は世界中の多くの場所から供給可能だが、精錬と精製の能力には戦略的依存関係がある」と述べました。このコメントは、鉱業業界における加工能力の重要性を再認識させるものであり、特に特別な金属や合金の供給において、精錬インフラがいかに不可欠であるかを示しています。
精錬能力の戦略的依存
ホルトム氏は、例えばアンチモン(Sb)の生産において、鉛精錬所が不可欠であることを例に挙げ、「アンチモンなしでは鉛精錬所は成立しない」と指摘しました。また、ガリウムやゲルマニウムの精製には亜鉛精錬所が必要だとし、各国の精錬能力の強化が必要だと訴えました。このような精錬能力への依存は、特に金属の供給チェーンにおいて不可欠な要素となります。
オーストラリアのアンチモン生産事例
オーストラリアでは、過去に衰退していたアンチモンの生産が再開され、政府の支援を受けてナイスタ―社のタスマニアのパイロットプロジェクトが進行中です。ホルトム氏は、オーストラリア政府の支援があったからこそ、産業規模での生産が可能になったと述べました。特に、オーストラリアが西側諸国の中で最も積極的に精錬インフラを支援していることを高く評価しました。
アメリカと欧州の精錬インフラへの関心の差
ホルトム氏は、アメリカが精錬能力の強化に関して前向きな取り組みをしている一方で、欧州は高いエネルギーコストや炭素排出規制の影響で課題に直面していると指摘しました。特に、アメリカには現在、亜鉛の精錬所が一つしか残っておらず、精錬インフラの不足が深刻化しています。これに対して、オーストラリアやアメリカでは精錬インフラの支援が活発に行われており、今後の競争力を左右する重要な要素となるでしょう。
鉱業における伝統的需要の重要性
ホルトム氏は、近年注目を浴びているAIや防衛関連の銅需要に関しても言及しましたが、依然として伝統的なインフラ需要が圧倒的に大きいと述べました。例えば、エアコンなどの消費者向け製品が銅需要の90%を占めており、これらの分野での需要が鉱業市場における主な原動力であることを再確認させる発言でした。
精錬能力不足の影響:銅精錬手数料の低下
最近、銅の精錬手数料(TC/RC)は12年ぶりの最低水準にまで低下しました。これを反映して、銅精錬所は供給圧力と競争激化に直面しています。銅精錬のビジネスはますます困難になっており、トラフィグラはその課題をどう乗り越えるかに注目しています。
まとめと今後の業界展望
鉱業業界の中でも、精錬能力は今後ますます戦略的に重要な要素となるでしょう。特に、政府の支援によって精錬インフラの整備が進む国々では、競争力を維持し、グローバルな供給網の中で重要な役割を果たすことが期待されます。さらに、伝統的なインフラ需要に依存しながらも、AIや防衛産業など新たな需要を取り込んでいくことが求められるでしょう。
金属フォーカス 編集部コメント
精錬インフラの重要性が増す中、各国政府の支援がその競争力を決定づける要因となります。特に、オーストラリアのように精錬インフラ強化を支援する国が注目される中、今後の鉱業業界は供給チェーンの安定性を確保するために、精錬能力への投資がカギとなるでしょう。


