ノーム・キーヴィル氏が描いたテクトロニクスとアングロ・アメリカンの未来:カナダのプライドを守る合併劇

Teck Resources and Anglo American


カナダ最大の資源大手テック・リソーシズ(以下、テック)は、創業者のノーム・キーヴィル氏の主導により、ロンドンに拠点を置くアングロ・アメリカン社との合併交渉を進めています。この合併は、テックとアングロ・アメリカンを合わせた時価総額600億ドル規模、世界有数の生産企業を誕生させるものです。しかし、この合併にはプレミアムが付いていません。キーヴィル氏は、2023年にグレンコア社が提示した230億ドルの買収提案を拒否しました。当時、グレンコアはテックに20%の買収プレミアムを提示していましたが、キーヴィル氏はこれを「今ではない」と一蹴しました。


キーヴィル氏が追求した「プレミアムなき合併」の真意

キーヴィル氏は、プレミアムを放棄してでも、テックの本社機能をカナダに残すことを最優先しました。この合併では、テックのブランド名を維持し、バンクーバーに本社機能を置くことが合意されました。業界歴60年のベテランであるキーヴィル氏は、この取引が「正しいことだ」と語っています。また、合併後の新会社は、カナダ国内に今後5年間で少なくとも45億カナダドル(約33億ドル)を投資することを約束しました。キーヴィル氏にとって、この合併は単なるビジネス上の取引ではありません。それはカナダの誇り、そして彼のレガシーを守るための戦略だったのです。


議決権喪失を前にしたキーヴィル氏の決断

キーヴィル氏が早期の取引を望んだ背景には、彼の議決権が2029年までに失効するという事情がありました。2023年のグレンコアによる買収提案を機に、テックの株主はキーヴィル氏の支配権を段階的に縮小させる取り決めを承認しました。この期限が迫る中、キーヴィル氏は自身の影響力が残っているうちに、テックの将来を確かなものにしたかったのです。カナダ鉱業協会のピエール・グラットン会長は、「ノーム氏が取引を遅らせれば遅らせるほど、彼がそれを形作る能力は低下する」と指摘しています。キーヴィル氏は、グレンコアの買収提案を「カナダは売り物ではない」と拒絶した過去があります。テックの魅力的な銅資産は、グレンコアやリオ・ティントといった世界の鉱業大手から常に注目を集めていました。


金属フォーカス 編集部コメント

この合併交渉は、資源業界における企業の合併・買収が、単なる経済的合理性だけでなく、創業者のレガシーや国のアイデンティティといった要素に強く影響されることを示唆しています。世界の銅需要が今後も高まる中、今回の合併で誕生する新会社は、グローバル市場で強力な競争力を獲得するでしょう。キーヴィル氏の決断は、カナダの鉱業界に新たな時代の幕開けをもたらす可能性があります。


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