![]() |
Brazil Trade Strategy |
ブラジル政府は、米国が課した自国製品への高関税に対し、報復関税を課さない方針を決定しました。ルーラ大統領は、2025年8月6日から施行された米国の50%関税に対抗する措置として、当初は報復を検討していました。しかし、今回の決定は、貿易関係の悪化を避け、交渉による解決を目指すという現実的な路線への転換を示しています。この動きは、ブラジルの通商戦略が新たな局面を迎えたことを示唆しています。
報復回避の背景と国内産業界の声
ルーラ大統領が報復関税を見送った背景には、国内産業界からの強い要請がありました。ブラジル産業連盟(CNI)の会長は、関税引き上げに技術的・経済的根拠はないとしながらも、「今、報復すべき時ではない」と発言しています。ブラジル米国商工会議所(Amcham)の調査でも、ブラジル企業の86%が報復措置が両国関係を悪化させ、交渉の余地を狭めると考えていることが明らかになりました。ブラジルは米国との間で貿易赤字を抱えており、2025年上半期には米国の対ブラジル貿易黒字が前年比7倍以上に拡大しています。報復は、この状況をさらに悪化させるリスクを伴うため、ブラジルは慎重な姿勢をとっています。この慎重なアプローチは、ブラジルの通商戦略の核心を成しています。
WTOとBRICS、多角化で活路を探るブラジル
ブラジルは、報復という直接的な手段を避け、多角的なアプローチで貿易問題に対応しています。まず、米国が世界貿易機関(WTO)の最恵国待遇原則や関税譲許といった中核的約束を「甚だしく侵害している」として、WTOへの提訴を検討しています。一方で、ルーラ大統領は他のBRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)との関係強化も推進しています。2026年1月には、500人以上のビジネス代表団をインドに派遣し、貿易、エネルギー、重要鉱物などの分野での協力を模索する計画です。ルーラ大統領は「損失を嘆くのではなく、どこか別の場所で勝利を探す」と述べました。この発言は、米国一辺倒ではない新たなブラジルの通商戦略の方向性を明確に示しています。
金属フォーカス 編集部コメント
今回のブラジルの通商戦略転換は、グローバル経済の複雑なパワーバランスを反映しています。資源国であるブラジルが、特定の国との貿易摩擦に感情的な報復ではなく、多国間交渉や市場の多角化で対応する姿勢は、他国の政策立案者や投資家にとっても重要な示唆を与えます。特に、重要鉱物やエネルギーといった分野での新たなパートナーシップ構築の動きは、将来のサプライチェーンに大きな影響を与える可能性があります。