銀価格の動向:トランプ政権の貿易政策と需給逼迫が織りなす市場の今

Silver Prices


世界の貴金属市場で注目を集める銀価格が、一時的に高騰後、反落を見せました。これは、ドナルド・トランプ米国大統領が欧州連合(EU)とメキシコに対する貿易緊張をエスカレートさせた結果、ドルが上昇したことに起因します。銀は米ドル建てで取引されるため、ドル高は海外投資家にとって銀の魅力を低下させます。本稿では、トランプ政権の貿易政策と、銀の物理的供給の逼迫という二つの要因が銀価格に与える影響を深掘りします。


トランプ政権の貿易政策とドル高の影響

トランプ大統領は先日、メキシコとEUに対し30%の関税率を適用する可能性に言及しました。これは、主要な貿易相手国との交渉が8月1日までに進展しない場合に新たな関税が発動されるというものです。この関税脅威はドルを押し上げ、ひいては銀価格に下落圧力をかけました。銀は米ドルで取引されるため、ドルの上昇は他通貨を持つ投資家にとって銀の購入コストを実質的に引き上げます。特に、世界最大の銀生産国であるメキシコが30%の関税対象となる脅威は、市場に大きな不確実性をもたらしています。USMCA協定では銀が最新の課税対象から除外されているものの、一部のトレーダーは将来的な除外撤廃のリスクを懸念しています。


物理的供給の逼迫と産業需要の増加

一方で、銀価格の上昇を牽引する要因も存在します。それは物理的供給の逼迫です。ロンドン市場では、銀のスポット借り入れコストが通常ゼロに近い水準から一時年率6%以上に跳ね上がりました。ブルームバーグのデータによると、2月以降、銀を裏付けとするETF(上場投資信託)の残高は約2,570トン増加しました。これは、ETFが保有する銀が貸し出しや売買に利用できないため、物理的な市場供給を圧迫していることを意味します。加えて、銀は太陽光パネルなどの産業用途で不可欠な産業用マテリアルであり、その需要は年々増加しています。シルバー・インスティテュートによると、世界の銀市場は5年連続で供給不足に陥る見通しです。

これらの要因が複合的に作用し、銀は今年に入って32%上昇し、金の上昇率(27%)を上回りました。金に対する銀の比率もここ数ヶ月で低下していますが、歴史的に見れば銀は依然として割安な水準にあります。現在のところ、金1オンスを購入するには約86オンスの銀が必要であり、これは過去10年の平均80オンスを上回ります。


金属フォーカス 編集部コメント

トランプ政権の貿易政策は、銀市場に一時的な変動をもたらすものの、物理的供給の逼迫と高まる産業需要という根本的な要因が銀価格を支える構図は変わらないでしょう。短期的には地政学的リスクや為替動向が価格を左右しますが、中長期的には再生可能エネルギー分野での需要拡大が銀の価値をさらに押し上げる可能性を秘めています。

コメントを投稿