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Copper Tariffs |
米国トランプ政権が2025年8月1日に施行を計画する銅輸入関税50%は、世界の銅市場に大きな波紋を広げています。トランプ大統領はこの措置を国内生産の活性化に繋げたい考えですが、その実現性には疑問符がつき、むしろ米国産業のコスト増に直結する可能性が高いとみられています。本稿では、この銅関税が米国および世界の銅市場に与える影響について、専門的な視点から深掘りします。
米国国内生産の厳しさと供給課題
トランプ政権の銅関税導入の狙いは、米国内での銅の採掘および精錬を促進することにあります。電気自動車、軍事機器、半導体など、多岐にわたる産業で不可欠な産業用マテリアルである銅の国内供給を強化しようという意図です。しかし、米国の銅市場の現状を見ると、短期・長期の両面で生産量を大幅に増やすことは極めて困難です。米国は年間必要量の半分強しか国内で生産しておらず、2024年には精製銅を81万トン輸入しました。フリーポート・マクモランやリオ・ティントといった主要な銅鉱山会社が既存鉱山の生産を増強しても、それは一時的なものに過ぎず、持続的な供給増には繋がりません。
さらに、輸入した銅鉱石を国内で精錬する選択肢も非現実的です。稼働停止中の製錬所を再稼働するには、時間と多額の費用が必要となります。現在、唯一の候補とされるグルポ・メヒコ傘下のアサルコ社ヘイデン製錬所も、4年以上休止状態です。新規鉱山の開発も、リオ・ティントのレゾリューション・カッパー・プロジェクト(アリゾナ州)が先住民との法的紛争で遅延しており、たとえ迅速に進んだとしても、生産開始までには数年を要します。
産業界への影響とグローバル価格変動
米国が銅輸入に依存せざるを得ない状況は続きます。つまり、米国の銅購入者は、関税を支払うか、銅消費量を減らすかの二択に迫られることになります。この銅関税は、自動車メーカー、住宅建設業者、電子機器メーカーなどの企業に直接的なコスト増をもたらします。国内の銅価格は輸入価格に合わせて上昇するでしょう。これらのコストがどのように吸収または転嫁されるかは企業の市場支配力に左右されますが、最終的には消費者への価格転嫁によるインフレ加速、あるいは企業の投資や雇用抑制に繋がる可能性が高いです。
また、銅関税は世界の銅価格と市場動向にも影響を及ぼしています。2025年上半期、米国は分析会社マッコーリーの推計で88.1万トンの銅を輸入しており、これは本来の必要量44.1万トンを大幅に上回ります。関税導入後、備蓄された安価な銅が消費されれば、米国の輸入量は急減するでしょう。この動きは世界の銅価格を下押しする可能性があり、トランプ大統領の再選以来続いていた価格上昇トレンドを反転させるかもしれません。関税発表前はロンドン市場に対する米国市場のプレミアムが13%でしたが、発表後は26%まで上昇しました。しかし、50%の関税率にはまだ達しておらず、対象製品や特定の国への適用除外の可能性など、市場の不確実性が反映されています。
金属フォーカス 編集部コメント
トランプ政権の銅関税は、保護主義的な政策がグローバルなサプライチェーンにもたらす典型的な課題を示唆しています。国内生産の促進という目標は理解できますが、現実的な生産能力や時間軸を無視した一方的な関税措置は、むしろ国内産業の競争力を削ぎ、最終的には消費者に負担を転嫁する結果に終わるでしょう。世界の銅市場は、米国の政策によって一時的な混乱に見舞われる可能性がありますが、長期的には市場原理に基づいて需給が再調整されるものと予想されます。