精密化された輸出管理で欧米企業の供給網に圧力、磁石素材が焦点に
中国は2025年4月、高性能レアアース磁石の輸出を新たにライセンス制に組み入れ、グローバル供給網の要所を戦略的に掌握する体制を強化した。これは、アメリカによる先端技術輸出規制に触発された形で、「制裁の相互化」とも言える。
この制度強化により、中国は電気自動車(EV)用モーターやミサイル誘導装置向けの希少素材の輸出先・用途を把握できる立場を確保。欧州や日本の自動車部品メーカーでは今週、供給途絶で生産停止が相次いだ。
米中首脳の電話会談(5月末)では、トランプ大統領が「レアアース磁石と他の重要項目の整理が進んだ」と語ったが、中国側が承認スピードを上げるとは明言していない。欧米企業幹部の間では、「これは単なる輸出管理ではなく、戦略的影響力の行使だ」との見方が広がっている。
中国はレアアースの鉱石生産で世界シェア約70%を持ち、さらに精製・加工分野では実質的独占状態。この体制の下、輸出許可制は「輸出を止めるのではなく、どこにどれだけ流れているかを掌握する“手術刀”」(米国企業幹部)として機能している。
背景には、2010年の日本向けレアアース禁輸措置や、2020年の輸出管理法施行など、30年にわたる国家戦略がある。中国は米国による半導体・AI制裁への対抗として、ガリウムやゲルマニウム、黒鉛などの輸出管理も段階的に導入してきた。
現在、中国商務省の担当部門(約60人)が、世界の製造業を支える供給網の“水門”を握る状況となっており、日本の数百社も輸出ライセンス待ちの状態にあるという。
中国の行動は、必ずしも明示的な報復とはされていないが、「承認の遅延という“信号”を通じ、米国のさらなる技術規制に対する牽制になっている」との指摘もある。
金属フォーカス編集部コメント
中国によるレアアース磁石の輸出規制強化は、素材そのものの希少性ではなく、精製・加工能力の集中による“地政学的な希少性”を浮き彫りにしている。特に日本や欧州の製造業にとって、短期的な調達リスクにとどまらず、サプライチェーンの透明性とレジリエンス確保が中長期的課題として突きつけられた形だ。代替供給源の確保には年単位の時間と資本が必要であり、レアアース資源の戦略的価値は今後さらに高まると見られる。
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