トランプ氏が固執する「レアアース」─その真価と環境課題【金属フォーカス】

レアアース

中国が握る精製技術、西側はリサイクルで巻き返せるか?

ドナルド・トランプ米大統領(再任)は、ウクライナ、グリーンランド、深海採掘における資源確保戦略の一環として、「レアアース(希土類元素、REEs)」への関心を高めている。突飛にも見えるこの姿勢だが、実は欧州委員会の旧体制も戦略的鉱物資源の安定供給を重視しており、地政学的にも妥当な焦点と言える。

エネルギー転換の要、そして地政学リスク

REEsはEV用モーター、医療用イメージング機器、石油精製、スマートフォンやディスプレイといった多用途に使用され、今後のエネルギー転換とデジタル化に不可欠な素材である。特にネオジムやジスプロシウムといった重希土類は風力発電などにも不可欠だ。

その一方で、REEsの採掘と精製における中国の圧倒的支配力は、サプライチェーンの最大リスクでもある。中国政府は、米中貿易戦争においてREEsを戦略カードとして活用しており、供給不安定化を通じて西側への影響力を高めている。

採掘量に加え、精製技術においても西側諸国は大きく後れを取っている。こうした中、豪ライナス・レアアース社(Lynas Rare Earths)が中国以外で初めて重希土類の商業生産を開始したことは、米欧にとって重要なブレイクスルーだ。

リサイクルが切り拓く新たな供給源

新規採掘は環境負荷が高く、放射性廃棄物や土地利用問題も抱える。一方、REEsは使用済み製品中に高濃度で含有されているため、リサイクルによる再資源化が注目されている。例えば、使用済み蛍光灯、磁石、バッテリーなどからの回収で、資源循環型供給が現実味を帯びてきた。

スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)の若手化学者マリー・ペラン氏は、使用済み蛍光灯のリン光体からユウロピウム(Eu)を効率的に回収する革新的技術を開発。酸で粉末を溶解し、硫黄化合物を用いて希土類元素を高純度で抽出する手法だ。

この技術は他の希土類廃棄物への応用可能性もあり、スケールアップによる産業応用が期待されている。リサイクルは環境負荷が低く、資源濃度も高いという利点を持つため、政策的な後押しがあれば、中国依存を軽減しつつ、持続可能なREE供給体制の構築につながる。

【金属フォーカス編集部コメント】

レアアースをめぐる地政学は、採掘量だけでなく精製・再資源化の技術競争の時代に突入している。環境負荷の低いリサイクル技術の確立と導入こそが、安定供給と経済安全保障の両立を可能にするカギとなるだろう。


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