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Aluminium Association of Canada |
エネルギー優位性と産業協力への打撃、カナダアルミ協会「世界的な通商構造の転換を招く恐れ」
2025年6月3日、カナダアルミニウム協会(Aluminium Association of Canada, AAC)は、米国がカナダ産アルミニウムに50%の追加関税を課すと発表したことに対し、強く反発しました。AACのジャン・シマール会長は「この措置はカナダだけでなく米国産アルミの需要も抑制し、防衛・建設・自動車などの重要産業全体に打撃を与える」と警告しています。
関税適用後の実質価格はトンあたり1,349.50ドルに上昇し、カナダからの米国向け輸出は経済的に不可能に近くなります。カナダ業界は米市場への供給継続を望みながらも、欧州連合(EU)などへの輸出多角化を視野に入れ始めています。
北米の産業・エネルギー連携の分断懸念
アルミ生産は電力コストが総コストの約40%を占めるエネルギー集約型産業です。カナダは豊富な水力資源に支えられた低炭素・低コストなアルミ供給国であり、米国は毎年270万トンのカナダ産アルミを輸入しています。これはフーバーダム4基分、またはネバダ州全体の年間電力消費に相当する規模で、米国のエネルギー制約下における重要な戦略的資源となっています。
AACによれば、カナダ産アルミは米国で70万人を超える製造業従事者によって加工され、年間2,280億ドル以上の米国経済貢献を果たしており、北米の相互補完的な産業基盤を形成しています。シマール氏は「125年に及ぶカナダ・米国の産業協力が損なわれれば、中国や中東など遠隔地からの輸入依存が高まるだけだ」と警鐘を鳴らします。
真の課題は中国の不公正貿易体制
AACは、現在の市場混乱の根本要因は中国による国家補助金を背景とした過剰生産能力にあるとし、米加両国が連携してこの問題に対処すべきと主張します。カナダ政府は2019年からデジタル輸入監視システムを導入し、2024年には3年間で1,050万ドルを投じて「市場監視ユニット」を設置するなど、輸入トレーサビリティ体制を強化。現在ではすべてのアルミ出荷をリアルタイムで追跡できる体制を整備しています。
AACは「カナダ産アルミは不公正取引の抜け道とはならない」と断言し、米国関税からの恒久的除外が北米の戦略産業と経済安全保障の維持に不可欠であると強調しました。
《金属フォーカス編集部コメント》
今回の関税措置は、「味方に制裁を課す」ことでサプライチェーン全体を損なう逆効果を招いています。アルミニウムは防衛やEVなどの戦略分野に不可欠であり、信頼性・環境性能・供給安定性のすべてを兼ね備えるカナダ産を締め出せば、むしろ中国依存が進む可能性があります。米国は産業政策と通商政策の整合性を再考する必要があります。
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