世界鉄鋼市場の行方:OECDが2025年見通しで過剰能力と歪みを警告

OECD

アジア主導の設備拡張と低成長が需給バランスを悪化

OECD(経済協力開発機構)は2025年版「世界鉄鋼市場見通し」を発表し、今後の業界環境に厳しい警鐘を鳴らした。
報告書は、世界的な鉄鋼需要の鈍化と供給過剰の再燃、さらに貿易摩擦と非市場的慣行による歪みが業界を圧迫していると指摘する。

OECDによると、世界の粗鋼生産能力は2025~2027年にかけて1億6,500万トン(+6.7%)増加する見通しだ。
そのうち約60%は中国とインドを中心としたアジア地域が占める。
一方、世界需要の年平均成長率は0.7%にとどまり、中国はマイナス成長、OECD諸国は横ばい、新興国の一部でのみ成長が見込まれている。

このギャップにより、設備稼働率の低下と供給過剰状態が再び深刻化し、価格下落と収益圧迫の連鎖が懸念される。
特に高効率で運営されている製鉄所でも収益確保が難しくなる可能性がある。

中国支援政策と輸出拡大が貿易摩擦を激化

報告書はまた、非市場的政策、特に補助金が競争環境を大きく歪めていると強調している。
OECD諸国と比較して、中国の製鉄企業への政府支援は売上比で10倍に達し、過剰な輸出促進の一因となっている。

中国の鋼材輸出量は現在1億1,800万トンに達し、多くの国が貿易救済措置を発動している。
2024年には、世界で81件のアンチダンピング調査が開始され、その多くがアジア製品を標的としていた。
加えて、原産地の変更や加工による「迂回行為」も急増しており、制度の実効性が問われている。

脱炭素投資の遅れと生産構造の二極化が深刻化

OECDは、過剰能力の継続が鉄鋼業界の脱炭素化投資を抑制していると指摘する。
2027年までに追加される能力の4割超が、高排出型の高炉・転炉(BF/BOF)経路で建設される見通しだ。

水素還元DRIやCCUSなどの低炭素技術が模索されている一方で、再生可能エネルギーや高品位鉄鉱石へのアクセス格差が拡大している。
これにより、生産・貿易フローの地理的な再編が進行する可能性がある。

OECDは国際的な協調の必要性を強調しており、市場の透明性確保、競争的かつ持続可能なグリーン移行を実現するには政府と業界の連携が不可欠だとしている。

金属フォーカス編集部コメント

OECDの警告は、鉄鋼業界が構造的転換期にあることを明確に示している。
中国主導の供給拡大と制度的支援は、短期的な価格競争を激化させるだけでなく、世界的な脱炭素戦略をも後退させる恐れがある。
今後の投資判断には、地域別の政策動向とグリーン技術導入の進捗状況を慎重に見極める必要があるだろう。

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