EUのCBAMとDRI(直接還元鉄):炭素コストの格差がグリーンスチール移行に与える影響

DRI-EAF


2026年現在、欧州の鉄鋼メーカーは金属原料の選択において非常に複雑な炭素コストの現実に直面しています。輸入された低排出のDRI(直接還元鉄)の炭素コストが、高排出の銑鉄を上回るという逆転現象が起きています。これは、EUのCBAMDRI(直接還元鉄)に対する厳しいベンチマーク設定と、域内銑鉄に対する寛大な無料割当のギャップが交差しているためです。この結果、2030年頃までは域内での銑鉄使用に経済的な優位性が生じます。


輸入依存とベンチマークの非対称性

欧州の鉄鋼脱炭素化は、依然として輸入された低排出の金属原料に大きく依存しています。しかしながら、ロシアからの輸入停止や域内プロジェクトの遅延により、遠方からの代替調達が不可欠となっています。ここで深刻な問題となるのが、EUのCBAMとDRI(直接還元鉄)の制度設計がもたらす著しいコスト格差です。域内で生産される溶銑にはEU ETSの寛大な基準が適用されます。一方で、輸入DRIにはより厳格なCBAM基準が適用されるため、同一の排出量であっても輸入材のほうが1トンあたり約70ユーロも高い炭素コストを負担します。


脱炭素化スケジュールの遅延リスク

この炭素コストの意図せぬ歪みは、電炉(EAF)への本格的な移行を遅らせる要因となります。排出削減の物理的な恩恵がコスト上の優位性に直結しないため、鉄鋼メーカーは当面の間、既存の銑鉄とスクラップの併用に依存し続けるでしょう。加えて、2030年に向けて無料割当が段階的に縮小されて初めて、EUのCBAMとDRI(直接還元鉄)の本来の競争力が発揮されます。したがって、長期的にはガスベースのDRIが市場の主流となりますが、短期的には規制枠組みがグリーン化のタイミングを歪めていると言えます。


金属フォーカス 編集部コメント

環境規制が意図せず従来の高排出ルートを保護してしまう典型的な政策のパラドックスです。2026年7月の欧州委員会提案が示す通り、排出削減の理想と産業保護の現実の間で制度が揺れ動いています。域外からのDRI輸出企業やグローバルな投資家は、2030年以降の本格的な炭素価格上昇を見据えた、長期的な供給戦略の構築が求められます。

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