EU、ロシア産スラブ輸入への「制裁抜け穴」を巡る対立

Russian slabs


欧州鉄鋼業界に広がる不満と危機感

欧州の鉄鋼生産者たちは、ロシアからのスラブ輸入に対する制裁措置の緩和に強く反対しています。EUは18もの制裁パッケージを科してきたにもかかわらず、ロシア産半製品への依存度が高い現状です。2024年にはEUのスラブ輸入量の63%をロシア産が占めました。この状況に対し、欧州の政治家や主要な鉄鋼企業が、ロシアからの鉄鋼製品輸入の完全禁止を強く求めています。


矛盾するEUの制裁政策:なぜ「抜け穴」が存在するのか

EUの制裁政策には、加盟国や特定の産業の経済的利害を考慮した妥協点が存在します。この代表例が、ロシアからのスラブ輸入の継続です。2023年末に採択された第12次制裁パッケージでは、当初2024年10月に停止予定だったロシア産スラブの輸入が、2028年9月末まで延長されました。この緩和措置の最大の恩恵を受けているのは、ロシアのNLMKの子会社であるNLMK Europeです。同社はベルギー、デンマーク、フランス、イタリアに圧延施設を所有し、生産を維持するためにロシア産スラブを必要としました。

一方、他の欧州企業はこの主張に反論しています。アルセロール・ミッタル・ヨーロッパのCMOであるローラン・プラズマン氏は、スラブ輸入の代替品は国際市場に豊富に存在すると指摘します。また、USスチール・コシツェも、ロシア産スラブが特別であるという主張を否定し、欧州域内の既存生産能力で十分に対応可能だと強調しました。結論として、ロシア産スラブが選ばれる唯一の理由は、その安価な価格にあります。


迫られる決断:欧州の産業保護と安全保障

ザルツギッターAGのCEO、グンナー・グレーブラー氏は、「ドイツ企業が生産能力過剰や工場閉鎖を議論する中、ロシアは戦争中に市場シェアを拡大している」と現状の矛盾を指摘しています。ロシア産スラブはEU内で加工され、低価格の「欧州製品」として販売されることで、市場の競争を歪めているのです。欧州委員会は今年初めに発表した「欧州鉄鋼行動計画」で産業保護を掲げましたが、制裁の「抜け穴」は、その政策的一貫性を損なっています。


金属フォーカス 編集部コメント

ロシア産スラブ輸入問題は、欧州の産業政策と安全保障戦略の脆弱性を露呈しました。短期的な経済的利益を優先する一部の加盟国の妥協が、欧州全体の競争力と安全保障を損なう結果を招いています。この矛盾を解決するには、EUが統一された強固な意思決定プロセスを確立し、域内産業の保護と安価な輸入品の流入抑制を両立させる必要があります。ロシア産スラブに対する効果的な関税導入など、迅速な対応が不可欠です。


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